状況に合わせた言葉の使い方をどのように学ぶの?〜言語科学の専門家に聞いてみた(2)〜
このブログを読んでいるみなさんの多くは、海外駐在生活でのお子さんの日本語の習得に関心をお持ちだと思います。
日本語を学ぶ、使っていく上でヒントになる情報を、少しアカデミックな視点からも探ってみましょう。このシリーズでは、マナまなBeeの教材制作にも携わり、言語科学の専門家であるツヅキさんに、言語の学習に関する素朴な疑問に答えてもらいます。
この記事は、「“言語を習得する”ってどういうこと?」に続く内容です。ぜひ前回の記事もあわせてご覧ください。
大人の使い方を見て学ぶ“共同注意”を上手に活用
― “言語を習得する”とは、状況に合う意味で使いこなせるようになることだとお話しいただきました。では、「この言葉は、こうした意味で、こんな状況で使うんだ」という、意味と状況の組み合わせは、どうやって学ぶのでしょう?
人には、他の動物と異なり「間主観的」にものごとを捉える力があります。自分の目線で見るのを「主観的」、一歩引いた第三者の目線で見るのは「客観的」と言いますよね。少し難しいですが、間主観的とは、主観と客観のちょうど間くらいの感覚です。他の人がものごとをどう見ているか把握する目線です。
言語の学習でいうと、その人が“どんな状況で、どんな意味で言葉を使っているか”を理解すること。相手の発言を通して、「こう使える言葉なんだ!」と学ぶわけですね。
この力がないと、言語は身につけられないと研究している人たちもいます。例えば、コミュニケーションに障がいのある人は、相手の目線になることが難しい。なので、言葉と状況が結びつけられず、適切な言語の使用も習得し難いのです。
間主観的なものの見方で言語を学ぶために、「共同注意」という行為を利用する方法があります。共同注意とは、ある状況で複数の人が同じものごとに意識を向けること。例えば、保母さんと幼児、保護者と子どもの組み合わせで、どちらも同じものに注目する場面をつくり、大人が口にしたセリフから、子どもが状況に適した言葉の使い方を学ぶのです。
目の前に5円玉があるとしましょうか。5円玉は、「5」という数字や、「お金」であることなど、いろいろな意味と関連付けられるものです。状況によってどの意味に注目するかは変わる。さまざまな場面で、5円玉が異なるの意味で捉えられているのを見ていると、自分も次第に5円玉の意味を使い分けられるようになります。子どもの共同注意の能力は高いといわれるので、大人が言葉を使っているところをどんどん見せるのは効果的です。
本や動画など物語のやりとりを通しても、同じように学ぶことができます。子どもの言語習得を助ける意味でも、間主観的に言葉に触れる機会をたくさんつくってあげてください!
*プロフィール*
都築鉄平(ツヅキテッペイ)
名古屋在住の言語科学博士兼Semiosis株式会社代表取締役社長。
言葉がどのように習得され、コミュニケーションが生成されていくのかに興味があります。